Fuji to Higanzakura

料理簡易記録、ときどき、?

母と添い寝する方法

ドライアイスのお兄さんが来たとき、母の身体はまだほんのりあたたかかった。

母ベッドと並んで奥に介護者のベッドがあるのを見て、「誰かここで休まれるんですか?」と聞くので、「はい、私が」と答えたら「寝ない方がいいですよ。ドライアイス二酸化炭素が出ますから」と言う。え?二酸化炭素中毒になるってこと? とはいえ、昨日まで母の隣には必ず誰かが寝ていて、今日もほんとはそのはずで、部屋の中も母も昨日から何も変わらないそのままなのに、呼吸と心臓が止まったってだけでいきなり今日は母一人がこの部屋で寝るってありえない感じなんだけど。通夜って夜通し傍にいるってやつでしょうもともとは、病院じゃなくて自宅にいるのにその当夜に家族が誰も一緒にいない方がいいってなんだそれ、とか一瞬のうちにぐるぐる思いめぐらしていたら「俺が寝るよ、いきなり一人じゃかわいそうだ」と父が即座に言ってこちらのぐるぐるを断ち切った。二酸化炭素は重いので、母ベッドを一番低い高さに調節し介護者ベッドの方を高くして、廊下側の障子と反対の窓をあけて扇風機で部屋から廊下に空気を流す、などと父と義兄が相談しだした。そうすれば大丈夫そうな気はするけど、明日、父は起きてくるんだろか。

母が息をしていた昼間と何も変わらないけれど、部屋にあふれる介護グッズの気配だけがぐわんと違う。無意味になったもの。そこにあるのを見ないふりして触れる気にならないもの。でもそこにいたら、きっと今日明日はそこに寝ている母と見比べては、どう感じていいかわからなくなるもの。母の隣は父が寝てくれるというし、休むつもりだった翌日の仕事に行こうと決めて、母の顔を見に家から飛んできたオットの車で一緒に自宅に戻った。

翌朝、実家にいる姉に電話したら、父は二酸化炭素から無事サバイブし、母が寝つきはじめて以来ずっとしているように、変わらず父が朝食を作ったという。

仕事を終えて実家に夜戻ると、ドライアイス取り換えのお兄さんが来て、部屋の様子を見て「どうされてますか?(部屋で一緒に休まれているんですか?)」と言う。昼間のうちに母は顔を綺麗に整えてもらっており、父は「(明日は別部屋で納棺だから、母がこの部屋のこのベッドで温かかったときと同じように寝ている最後の)もう一晩だけ隣で寝るよ。せっかく綺麗にもなったしねぇ」と言うと、ドライアイス兄さんは「寝ない方がいいんですけど」と言って帰っていった。

しばらくしたら、父がリビングのパソコンと首っ引きになっているので「二酸化炭素がどれくらいやばそうか調べてるの?」と聞くと、うんと言うのだが、画面をのぞきこむとなにやらグラフ表示が出ているので、何それ、と聞いたら、「寝室に二酸化炭素濃度計を置いて、そのデータを無線ランで飛ばしてるから、二酸化炭素濃度が時間経緯でグラフになって出てる」と返ってきた。

「はあああ? 二酸化炭素濃度計??? 無線ランで二酸化炭素濃度グラフ??? そもそもなんで二酸化炭素濃度計なんてものがあんの!?」「蘭の温室につけてたの」(蘭栽培は理想の二酸化炭素濃度がちょっと特殊らしいです。知らなかったけど)「ああそう!」「なんもしないと確かに3%くらいいっちゃうけど扇風機回すと下がるから俺寝るわ」「ああそう!」

翌朝、父の朝食を食べながら’。私:「無事でなによりです」。父:「うん、でもタイマー設定になってたみたいで、途中で扇風機とまってて、グラフ3%超えてたねぇ」義兄・姉・私:「シャレになんないから!!!」