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Fuji to Higanzakura

料理簡易記録、もしかしたら、心理臨床

イーストウッド世界に、ある視点から入ってみた。。。②

Higanzakura視点

 機長は、乗客や自分らも守るべく、離陸から着水までの5分弱の短い間に、経験と実感を総動員させて究極の判断をしてそれを完遂する。そのことを追求し追いつめていくことについて、見ている側は、まともな人間だったらそう感じるでしょう的なかなり集合的な感覚で「それはおかしい」と思うわけだが、そういう、人の一定方向に動く情動自体を、メタ的に俯瞰してとらえ、そこにあるとそれぞれが思っていた、人としての共通普遍真実的な意味存在を解体していくのがメタ化意識だ。だからそれはもう底なしであって、人が生きる「意味」のある世界を守りたいといっても、「人としておかしい」という感覚から「だからそれは間違っている」というように証明しようとしても決してできない。基本的に勝ちのとれない戦であって、底なしに自分の存在の意味がなくなっていく世界の中で、そのことに「それはおかしい」感だけで反応すると、それはヒステリーになり、あなたがおかしい、となる構造に現代意識というのはなっている。

 ところで機長本人は、情動的なところから怒れる余裕はなく、あれでよかったはずだという自身の確信感もろともに「生き埋め」となっていく可能性も覚悟し闇へと落ちていくようなその底なし感の中から、ふっと、メタ化意識の論理構造にも人や生き物としての「ファクター」をのせられそうな方法を、思いつく。そういう意味で、彼は、自分を追いつめる現代の論理を否定してはおらず、限りなくそこに入り込んだ末に、ある種の光明のようにそれを思いつくのであり、この段階で既に、クリエイティビティーの領域で起こるようなことだと思うのだが、その方法からさえも「形式」だけが実施されるものとなっていて人としての何かが抜け落ち、同じようなシュミレーション結果となる。

 それは、現代意識の自律的な理としての動きなのか(この場合は怒れない)、それとも、現代意識から利を得ている人(現代に生きていれば皆これはしているが)による「人為的意図的な作為」なのか(この場合は、その作為を暴くのが自分を守ることになることがある)、というこの2つの違いの境目は、けれど実は明確に客観的にあるようなものではない。だからそこに意図的作為があることを暴くことに踏み込むかどうかは、相手が悪だと信じてするのではなく、ただ異なる自分自身の感覚が信じられるかということと、今このタイミングでだ、ということへの「賭け」なのだが、機長はこの賭けに勝ち、そこから現象が反転していく。 

 機長は、最終的にも、自身の判断が100パーセント正しかったことを客観的に証明したわけではない。そもそももともとの追求側のシュミレーションにしても、シュミレーションが100パーセント正しいと言っていたわけではなく、前例などから総合的に考えたら最もオーソドックスな空港に戻るという判断が、これだけシュミレーションで安全にできるという結果が出ていることから見れば、それが高確率でできたと推測でき、ハドソン川に着水しようなどという大それた試みよりもよほど安全確率は高いと判断される上、たまたま皆無事だったとはいえ、救助のための社会的リソースの莫大な動員などは、社会経済へ1個人が徒にダメージを与えたことにすぎないととらえることもできる(そうであれば保険会社は莫大な損失補填を払わなくてもよい)、という見方への「説得力」を、単にシュミレーション結果が高めている、というだけのことだ。だからそれに対して、機長の側は、人命を守るという点からの判断、という見方への「説得力」を、それ以上に示せるかどうか、なのだ。

 機長の「賭け」から、客観性を求めてメタ化していく現代的な意識からの事象検証の世界だった審査会の場が、身体的な生身のレベルで「腑」に落ちて納得するという、人の「こころ」がパラメータとして入ってくるような「説得術」が展開している世界へと、場が変容する。「説得術」というと聞こえが悪いかもしれないが、メタ化意識は、機長の確信感をも底なしに呑み込んでいく圧倒的なものではなく、機長側の意識とそれは、対等なものとなりえる場となった、ということだ。

 追いつめられるところまで追いつめられ、他に道はないというところを冷静に判断応答し、現象を見事に反転させたこの審査プロセスの付置は、飛行機着水判断とその完遂の付置ともパラレルに重なり、それがいったいどういうことだったのかが立体的に(身体レベルで)浮上してくることになる。 

 そしてそれまで追求側だった人にも、機長判断に肚の底から納得したとき、人の「こころ」を持っていることが見えてくる。

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同記事まとめ①〜③

higanzakura109.hatenablog.com